ふと室内に脚を踏み入れると紫暗に広がる白い筋。
そして嗅ぎ慣れた特有の匂い。
かちゃん、と扉の閉まる音がしても何もそこにある時は動こうとはせずにただ、時を刻む時計の音だけがカチコチと響く。
そしてくゆる煙。
しーんとしているその清浄なまでな空間が痛い程に身体に染み入る。


すす、っと近づくも、全く動こうとしない。
「…葵さん…?」
恐る恐る近づき、小さな声でその愛しい人の名前を呼べば、ん?とくぐもった声。
嗚呼。
この人ちゃんと生きてたんだ、と。
「どないしたー?」
そんなびくびくして、といつもの笑顔を向けられほっとする反面、俺じゃ役不足なのかな、って。
する、っとその身体の横に自分のカラダを滑らせる。
ひんやりした革張りのソファーの感触と、葵さんのちょっとだけ暖かい感覚。
まるで甘えてる風にぴったりとくっつけば、くすくすと漏れる声。
「葵さん最近煙草吸いすぎじゃない?」
ちょっとだけ気になる事。
多分凄いストレスとかたまってたんじゃないかなーって。
事ガゼットになるとどうしても一人で何でもしょっちゃおうとする人だから、このツアーファイナルを終えるまでの彼への精神的ストレスは考えられない位だったのだろう。
「んー……そーか?」
言いながらこてん、と肩に感じる重み。
そして消える煙草の火。
「まあ、そうやったかもなー」
でもこうしてるだけで俺は楽になれるんよー、、と。
とても嬉しいことだけど、同時に俺はちゃんとこの人の支えになってあげれてるのか、って言う不安。
「葵さん何でもしょいすぎなんだもん」
たまには俺みたく息抜かなきゃ、といいながらその頭にぐりぐりと頭を押し付ければそやなーって、なんともまあ息の抜けた返事。
そしてすとんと膝の上に降りてくる頭。
「…葵さんにこーして膝枕してあげるの久々だね」
ゆっくりと髪の毛を梳きながらじっとその表情を見つめれば、すっかりシャープになった頬。
そのシャープさは、前よりもよりいっそう男らしさを演出し、さらに最近の忙しさを物語っていた。
さらさらと指の間から抜けていく黒髪は所々痛んでいて。
「最近忙しくてこーしてゆっくりしとる暇なかったしなー」
やっぱ麗の膝枕が一番やよ、なんて言いながら目を瞑る恋人。
そんな一連の何気ない動きなのに。

俺の目はこの
美しい人に
全てを奪われていた。
















どれだけ時間がたったのだろう。
外はすっかり闇に染まっていて、室内に入り込む光はすっかりネオンなもの。
街灯と民家の明かりで微かにぼんやり浮かび上がってくる室内に、デジタルの時計が示す時間。
「んー…」
膝の上にある恋人の重みで、ふと意識を戻し、気づいたら寝ていたのに思わず苦笑。
せっかく二人でいたのに、二人とも寝てるとかって。
かなり脚がしびれてるけど、自分が動いたらこの人が起きてしまう、と動く事も出来ずに、薄がりの中でじっと。
取り折、身じろいで微かに動く唇。
この唇から噤まれる言葉に俺の音楽以外の世界は全て支配されていて。
薄がりの中そのピアスがついてる唇にまるで魅入られるように。
「……」
そっと手で触れれば少しかさついてる。
でもふっくらとしてるそれ。
「……うる、、は?」
そんな触られてるのに気づいてゆっくりと目を開け、視線が絡む。
「ぁ…。ごめん、起こしちゃった?」
ごめんね?と苦笑いして。
でもその唇から指先が離せずにそのまま固まってしまう。
「……麗に寝込み襲われるとは思わやんかった」
そのまま指先にちゅ、っと。
そして気づけば頭を強引に引き寄せられ口腔内を全て食われてしまうんじゃないかって位激しく舌先に犯される。
「んっっ……ふっっ」
口端から漏れる声が我慢できずに、静寂に支配されていた世界が瞬時に変わっていく。
くす、っと相手から漏れた笑みにますます羞恥がかられ、相手から離れようととんとん、と肩を叩いてようやく脱出。
「………馬鹿」
微かに肩で息をしながら睨めば、いつもの彼。
にぃ、っと楽しそうに口端をあげるしぐさにドキンと。
「寝込み襲う麗が悪いんやん」
くすくすしながらよいっしょ、と起き上がる彼にすら色気を感じてしまい、今暗くてよかった、なんて火照る頬に本気で思う。
本当なんで、この人ってこんなにも俺を狂わせるんだろう。
「ぁー…、、、久々によう寝たわ」
気持ちよかったし、最高やよ、と。
そんな何気ない言葉一つで俺だけの特権だな〜と。
単純にも思ってしまう。
「葵さん最近寝てる時間なかったもんねー」
俺もよく寝たよ〜〜、、と言って脚に違和感。
ありえないほどの違和感。
「…どーした?」
黙っているのに不審がられて覗き込まれればへら、っと。
「ぁ…脚が…」
痺れて動けない〜〜と。
そう。
葵の頭の重みですっかり血流障害を受けてた俺の脚はまるで正座を長時間した後のように痺れていた。
















「しゃーないなあ」
そんな俺を見てた葵さんがひょい、っと。
「わっっ!!!」
気づけば肩の上に担がれるような体勢で揺れる身体。
「ちょっと葵さんーーー」
荷物持ちはやめてよ、、とぶつぶつ言ってればすぐに景色が変わって、もっと恥ずかしいお姫様抱っこ。
「……」
この人って本当自然とこういう事するのがどうしたらいいかわからなくなる。
ちゅうか何で俺葵さんに運ばれてるんだろう。
「麗が俺ん事襲ってくれたし、今度は俺が襲ってやらんとな」
ちゅ、っと首筋に降ってくる口付けにぞくりと。
耳元で麗、って少しかすれた声で言われるだけで、全てがそこに集中してしまう。
「……葵さんのエッチ」
もう、俺のガタイで照れるとか本当キモいけど、本気で照れるんだって。
自分ひとりだけなんでこんなに涼しい顔してるの、って。

「そりゃー…」
麗ん事好きやからエッチになれんやて、なんて耳元で囁かれたらぞく、っとくるの当たり前じゃん。
わかっててやるのが本当この人って見た目以上に腹黒いし確信犯で。
俺に衝撃がこないようにゆっくりとベットの上に下ろされ、ギシっと葵さんの腕が俺の身体の横にくれば軋むベット。
その軋む音すらも俺のドキドキを増させるもので。
早なりする心臓に軽く眩暈。


「…麗めっちゃ緊張しとる?」
くすくすしながらその指先が滑るようにボタンをはずしていき、露にされた胸元に触れるだけで、さらにドキドキが止まらない。
「…葵さんだってドキドキしてんじゃん」
俺からも相手の上着を脱がそうとして伸ばした指先に触れた胸元に感じる鼓動。
いつもより幾分か早いのに気づいて。
そーいや、最後にシたの一ヶ月位前だったっけ、と。
「麗を前にして興奮しやんわけ無い…しな」
やから心臓早いんよ、とくす、っとされた瞬間、その手首を掴まれ強引に口付けられる。
下唇を舐められたと思ったとたん、する、っと入り込む舌先。
くちゅ、っと濡れた音をわざと響かせるように歯列をなぞられ口腔内を弄られる。
上顎をつつかれるだけで、ぞくりと背筋に何かが走るような感覚。
くちゅくちゅと響く音だけで、全てが濡れてくような感覚に強引に導かれ、頭の芯が真っ白になっていく。

「んっっ…ふ、ぁっっ…」
顎を伝う唾液にすら感じてしまい、漏れる自分にしては甘い声に耳をふさぎたくなるも、我慢できずにあふれ出てくる想い。

クラクラする。
酸素を求めて顔をずらそうとしてもそれは葵によって遮られ、どうにもならずにくぐもった声だけが溢れる。
その間にも相手の手が肌を伝い、かちゃかちゃと言う金属音にベルト緩められてるんだ、と。
どこまでも自分優位な人。
俺の色を残しつつも、自分好みに全てを変えていくずるい人。
「っっっ……」
上唇を甘噛され、ふ、っと離れていく唇。
そして急激に肺に入り込んでくる酸素。
肩と胸で必死に呼吸を整えようとするもまだ頭の奥はガンガンとしていてそしてぼーっとする。
「キスだけで感じた?」
くすくすしてる葵さんに言葉を発する事も出来ずにただただ見つめるだけ。
感じる、というか全てが葵さんに侵食されてく気分。
早くもっと葵さんを感じたくてその手を胸元に持っていけば、積極的、と低く囁かれる。
ゆるゆるとじらすように触れられるのがじれったい。


でも悪く無い。


「葵……」
ようやく口から出た声は、驚くほどに甘ったるいもので。
俺のそんな声にびっくりした相手に手を伸ばし、まだ半分とまったままのシャツのボタンをはずしていく。
徐々にはだけていく胸元。
その均整の取れた体躯に見とれてしまう。
俺とは違ったその引き締まった筋肉。
俺だって別に引き締まってないわけじゃないのに、本当に葵さんの身体はこう、男の俺からみても見とれるもので。
「……そないにジロジロみやんと」
エッチ、なんて茶化され、直ぐに胸元に降ってくる口付け。
舌先で胸元を転がされちゅ、っと音がするたびにそこに所有の印が刻印されてるんだなーって。
「っっ…んぁ…」
そこ、気持ちい、と意識がくる前に身体は正直に反応を示して、早く次の行動に移ってもらいたくて疼く。
「麗……?」
わかってるくせに下から見つめられ本気で恥ずかしくなり、同時に身体の熱がますます一点に集中してく。
「……もー……」
今日は優しくして?なんて言ってもきっと最後の方は激しくされちゃうんだろうな、と思いつつ、最後の足掻き。
「俺ね、葵さんの全部…欲しい」
だから、優しくしてね、と。
耳元で囁いてやった。








End





〜あとがき〜



もう恥ずかしくて終了。
ダメだ。
麗視点で葵麗なんて書くんじゃない。
もう恥ずかしさ倍増で途中から撃沈。
でも書きたかったんだよーーーーーー!!!(号泣)
これはですね、リンクを貼らせてもらってる花野様へプレゼントです。
かってに(すげえ勝手に自分勝手にですから!)
今度大阪でお酒のみましょうね〜〜〜v
んで、餌はもちろん麗で。
つーかいつも葵さんトークに燃えるわしに付き合って頂きありがとうございます。

葉月透夜