二人でいる幸せ。
まるで甘酸っぱくて
くすぐったいような。
「さくらんぼ」
一週間に一度。
俺の脚が必ず向かう所。
忙しいはずなのに、必ず俺が行く時にはいてくれる。
そんな華の金曜日。
かちゃり。
俺だけに、とふわっと零れ落ちるような笑みと共に渡された合鍵。
それを使うのは一週間に一度だけ。
自分にとっても、相手にとっても。
この関係が決してよいとは言えないのがわかってる。
でもやめられないで、気づけばどっぷりと深みに嵌ってる自分。
この鍵を使って、この扉を開けた瞬間から、再びその扉を閉じる瞬間まで。
俺と彼の夢のような一時。
中にそっと入れば、少しタバコの煙りでよどんだ空気。
そして馴染みきってる彼の部屋の香り。
玄関にある靴で、今日も俺が来る前にしっかり帰宅してるのがわかり、思わず顔が緩む。
俺とこんな関係になってもなお、俺のことを慕い、俺のために動いてくれる彼。
精一杯背伸びして俺に合わせようとしてくれてるのがしっかりとわかり、それが逆に愛しい彼。
いつでも俺を喜ばしてくれて、最高に可愛い。
この一週間に一度、と言う短い間に沢山の表情を見せてくれる。
キィ、っと微かに鳴る扉を開け身体を中に滑らせれば、室内に置いてあるソファーにちょこんと黄色い頭。
いつもこの時間だったらTVは彼のお気に入りの番組で、おかえりなさいと言う声とともに、その笑顔を見せてくれるのに。
いつもと違って静かで。
エアコンから送られる暖かい風に靡くその金の糸。
「……?」
そーっと、そーっと。
ゆっくりと近づけば、そこには目を瞑り夢の世界にいる君。
手にはリモコンと携帯。
握り締めたまま今にもずるりと落ちそうな感じで。
テレビから流れてくる音だけが彼を取り巻き、まるで起こす事が罪かのようにそこだけ別世界のよう。
自分もそれなりにハードな仕事だと思う。
しかしそれ以上に
時間に不規則で色々気苦労が耐えないこの子。
感情を表に出す事を得意としないから余計に。
疲れているのだろう。
ただ、自分を待っていてくれてる、と言う事実に。
それだけで
心が歓喜を叫ぶ。
今だってその握られてる携帯のディスプレイにはきっと俺の名前の打たれたメール。
本当に愛しい。
「こんなとこで風邪ひいちゃうじゃないか」
上着を脱いでるから。
どうしても薄着に見えてしまう彼。
最近短く切った髪の毛から見える項。
一度風邪を引いたら結構こじらせてしまうのは、この短い付き合いの間で十分にわかった。
いくら部屋の設定温度が27度だとしても。
こんなとこでそんな格好で寝ていたら風邪を引きかねない。
でも、起こしたくない。
「仕方がないな」
自分が着ていたジャケットを脱いで起こさないようにそっとかけてやる。
この年下の恋人に風邪はひかせたくない。
自分がひいたほうがましだ、と何度となく思う。
目を瞑っている姿は、いつも以上に幼く見える。
いつも自分の前だとくるくると表情豊かに瞳で語るのに、寝ていると本当不思議で。
君の周りだけ柔らかくなる印象。
余り寝顔を見る機会が多いわけではないから。
ここぞとばかりにゆっくりと。
すやすやと眠っているその顔は、またやせた?と思わせるには十分。
きっと忙しい中、自分のために時間を作ってくれるてるんだろうな、と思うとますます愛情が募る。
ゆっくりとソファーに座りそんな寝てる君の観察。
時折ん、と漏れる声にドキリとしながらもその空間が至極心地よい。
その何気ない空間。
ずっと見ていても飽きない。
「……ん…」
あ、起きちゃうかな?なんて思っていたら案の定。
目を擦りながら何故か自分の上にかかっているジャケットにきょとんとしてから。
「ぁ……山下さん俺っっ」
寝ちゃっててごめんなさい!と微かに頬を染め、起き上がるのは予想の範疇。
自分が不覚にも寝てしまった事にとても恥ずかしさを覚えて慌ててる姿が、本当に可愛い。
くすくすと笑みが零れ、そのままやんわりと。
「疲れてたんだろ?もう少し寝てなさい」
そのまま自分の方に引き寄せさっきまで風にふわふわと揺れていた金糸を指に絡めとるようになでてやればぶるぶると首を横にふられる。
「そんなの!!山下さんだってそうじゃないっすか!!」
俺だけ寝るとかありえないっす!!なんて必死に言われれば降参と言うもの。
どうしてこの子はこんなにまで自分を魅了するのか。
こんなにまで、自分を掴んで離さないのか。
つぶらと言うには正しくその通りなその瞳でじ、っと見られれば。
「じゃー…こうしようか」
くすりと笑みが零れる。
じゃあ、僕も寝たいから、玲汰くんが俺に添い寝してくれないかい?と。
技と息がかかるように耳元で囁けば、ぴくんと震える指先。
そしてこくん、と縦に動く頭。
甘える、と言う事が苦手な君のために。
自分から甘えるようなふりをして。
君の新しい姿を引き出していく。
まるでそれは自らが彼をデザインしているようで。
顎に手を沿え、くいっと顔を上げさせれば案の定赤く染まった頬。
「…山下さ…んっ」
ちゅ、っと口付ければ。
おず、っと首に回される腕。
「……」
そのまま舌先を割り入るように挿し込めば、躊躇いがちに絡んでくる舌先。
タバコの味。
くちゅくちゅと次第に漏れはじめた濡れた音と、エアコンから流れ出る温風の乾いた音のハーモニー。
そして漏れる吐息。
「……はぁっ……」
その薄い唇を堪能した後ゆっくりと離れれば、目の前には瞳を潤ませ、上気した君の姿。
「じゃあ、玲汰くん寝室に行こうか」
ちゅ、っと俺のデザインしたピアスが揺れる耳のすぐ下に跡をつけるように吸い付き囁いた。
End
〜あとがき〜
はい。山れ。
エッチなしな方で(笑)
それも流玲前提とかじゃなくて山れ!!(おお)
また久々に山れブームきてます。
実は山れでこのままエッチまでなだれこむ話を書いてたんですが、バックアップとる前にPCが反抗おこしましてですね。
消えたんですよ。
そして我に返ったんで、皆様の反応みてからにしようかと(笑)
山れなんて某M嬢しか喜ばないんじゃと。
山れの玲汰さんは凄い甘えたいのに甘えられない典型的な年下の受け子ちゃんって感じで。
山下さんはそんな玲汰さんの事すっごい甘やかしそう。
たまにはこんな落ち着いたカップルもいいかなーなんて。
山下さんのエッチはなんだかすっごいじれったそうですが(笑)