今日もあいつと逢えねえ!






「かくれんぼ」






「れいちゃん何大きなため息ついてんの」


幸せ逃げるし眉間に皺定着しちゃうよ?なんてスティックでテーブルにリズム刻みながらちらっと、視線だけをよこす戒。


「別にイライラなんてしてねぇべ」


「や、イライラなんて俺何も言ってないじゃん」


もう困ったなあ、的に苦笑される。


「まあ、れいちゃんのイライラの原因わかるけどね?」


そんなぼやきはすでに玲汰の耳には届かず、頭の中はそう、恋人一色だった。


もう何日も逢ってないあの姿。


フロントマン特有の表立った仕事のため、彼は今一人で動いている。


いつもの事だが、今回はいつもと違った。


そう『ガゼット』と言うバンドが大きくなったせいか、頓にその傾向が強い。


最初はよかった。


そう、最初は。


いつも横にいて当たり前になっていた。


そう感じてしまったら


寂しさが募るだけ。


そしてふと口について出てしまった言葉


「寂しい」


「逢いたい」


一度そう出てしまったら、普段強がりで素直に自分の事を表に出す事の出来ないのに


この時ばかりはとにかくその愛しい人に逢いたくて逢いたくて仕方がなかった。



「小便いってくんべ」


煮詰まってるのが明らかに外にわかるオーラを発してぼそっと。


「あー……うん、いってらっしゃい〜」


ウザいほどに傍にいる存在がいないだけで、こんなにもイライラするなんて。


昼も夜ももちろんすれ違いの生活らしく、全然逢えないことに苛立ちを覚える。


相手からの連絡もない。


ましてや自分から連絡するような可愛げがあれば違ったかもしれないが、そんなことも出来ずに。






「はぁ〜……」


自分がこんなにも流鬼に依存しているなんて。


そしてこんなにも好き、だったなんて。


「めちゃくちゃ寂しいじゃねーか」


ため息とともに出てくるそんな泣き言。


今日もそんな相手には逢えずに一人寂しく帰路についた。









「ん?俺鍵かけわすれてたっけ?」


鍵を差込みサーっとなる。


恐る恐る中に入るとほわっと広がる明かり。


そして懐かしい香水の匂い。






「!!!流鬼!!」


履いてた靴をその脱いでる時間すらももったいないといわんばかりに脱ぎ捨てバタバタと音をたて室内に駆け込む。


「よぉ、ただいまぁ?」


そこにはソファーにくつろぎながら手をひらひらさせながらも口元を上げる存在。


「馬鹿、ただいまは俺だべ?」


今日は確か夜から取材が入っているって事務所で仕入れた情報にはあったはず。


なのに、その取材の時間にここにいる。


それよりも何も久々のその存在にびっくりして、思わず可愛げなくそんなことしか口から出ない自分。


「急になくなったんだよ」


おまけに明日も午後からだってよ?嬉しいだろ?なんて。


誘われるがままに流鬼の横に座って、いつも以上に身体を密着させる。


言葉はない。


「んだよ、今日はやけに甘えっこじゃねーか」


たまにはそう言うのも可愛いぜ?なんていいながらちゅ、っと軽く唇に口付け一つ。


いつもだったらムカツクそんな台詞も、今日なら許せる。


だからする、っと首に腕を回し一言。


「たまにはいーべ?」


それがきっかけだった。












「っっぁっっ……」


一つ、一つとわざとゆっくりとボタンを外しながらその喉仏に軽く歯をたてる。


ちゅく、っとわざと音をたてて舌先を滑らせれば、そのもどかしさに玲汰は自らシャツの合わせをはだけさせる。


「今日はやけに素直だな」


くすくすしながらそんな玲汰の反応に昂ぶりを覚える。


指先をするっと合わせから中に差し入れ、わざとそこに触れないように弄ると、直ぐにじれったそうな不満の声。


そして囁かれるそこではない、と言う台詞。


「ドコ……?」


わかっているけど、そこは折角だから素直な玲汰に言ってもらいたい、と思う流鬼の男心。


胸の厚みを両手で揉みながらその中心で流鬼からの刺激を待ちわびているそこにはあえて触れず、真ん中に口付けを落とす。


上目遣いで玲汰を伺えば、そこにはすでに熱で潤み始めた瞳。


素直じゃないけど、身体は素直な玲汰。


欲しいのに欲しいと言えない玲汰。


全てが愛おしかった。


「馬鹿やろ……」


今にも零れてきそうな涙ぐんだ目で睨まれ、そしてその手を導かれる。


「流鬼、が……欲しいんだよ」


その言葉に流鬼はまいりました、と。


その夜は玲汰が失神するまでその肢体を貪り、食い尽くした。












「ん……」


肌寒さに目が覚める。


クーラーが効きすぎた部屋に裸のままの自分達。


部屋はすでにうっすらと白くなっている。


時計を見ればまだ明け方。


気付けば、横にある整った呼吸をする男の存在。


首やら胸やらにちりばめられた赤い印に、珍しく昨日は自分も求め、求められた昨夜、とう言うか数時間前の自分痴態を思い出す。


最後の方はよく覚えてない。


でも


多分自分も求めて


最後は相手にされるがままで。


今横にあるその寝顔は子供みたい。


さっきまであった男と一緒だなんて考えたくない程幸せそうな寝顔。


「ぅん……?」


じっと見つめていたら、その視線に気付いたのかその相手がゆっくりと瞳を開ける。


スローモーションのようにゆっくりと。


「何?寝れねえ?」


くすくすしながら唇をついばまれる。


きっと無意識なんだろう。


でもその流鬼から与えられる口付け。


嫌いでない。




きっと俺なんかよりずっと疲れているだろうのに。


その流鬼の目に映るもの全てを自分のものにしたくて、そのまま頭を引き寄せ自ら唇をうっすら開き、舌先を誘うように唇を嘗める。


絡み合う舌先。


濡れた音と


濡れた吐息。


「んっ……」


散々与えられる蜜を飲み込み、ふっと離されると急に寂しさを感じてしまい、とっさに不安げな顔をする玲汰。


「……」


昨日からいつもになく素直な玲汰に目を見開きふ、っと。


そう、まさにふ、っと愛しい人を見つめる時に現れる笑み。


「玲汰、、あんまり可愛い事ばっかしてっと、俺止まんねーぞ」


そう耳元で囁かれ


ふ、っと耳朶を嘗められる。


そして感じる違和感。


「わりい、、実は繋がったまま、なんだな」


もう1ラウンドな?なんて。


腰をくい、っと突上げられれば先程までに散々出された流鬼の熱いモノが繋がった所からコプ、と音をたてて溢れる。


「ッぁ……」


声を出してしまった時にはすでに遅かった。












翌日遅刻ぎりぎりで駆け込んだ事務所。


「結局れいちゃんってば凄く流鬼のこと好きなんだよね」


そう言う戒の姿があった。






END