情事後の気だるい空気。


煙草の煙が広がる空間。


自分の横で煙草をふかすこの男。


「身体しんどいやろから寝ときぃ?」


ふわっと頭にその手の感覚を感じるとともに、口腔内に広がる煙草の味。









「想」









場所はスタジオ。


俺らは初めての二枚目フルアルバム作成にほぼ缶詰のごとく毎日レコーディングの繰り返しだった。


二枚目と言う気負いはあるものの、今までとは比べ物にならない程の環境の良さを最大限に使おうと自分達も必死だった。


そして出来上がって行く過程で感じる音の違い。


技術の雲泥の差。


「やっぱ葵さんにはかなわないなあ……」


煙草に日をつけながらそう一言。


あこがれて入った世界。


練習もそれなりにした。


そしてどうしても、と言う自分の願いを汲んでか、それまで上手だった彼があっさりとその座を譲り、こうして自分が上手ギタリストとしている。


でも最近感じる音の華やかさの違い。


音入れの段階では最初に入れるのは麗の方だから、音が重なってからしか感じる事のない違い。






でもそれは確実に葵の方が俺にあわせてくれるときもあれば、確実に食ってしまってる時もあり。


その音に気になり始めたら、何故か葵自身も気になるようになった。






「うっさん〜?何怖い顔してんだよ」


「ん?俺そんな顔してた?」


今回の音の出来具合を確かめていると、流鬼からそんな声。


自己中に見えて、実は一番俺らの事を気にかけている存在であり、幼馴染を除いたら次に長い付き合い。


実はこっそり葵の方を見てました、なんていえずに適当に苦笑い。









適当


そんな人生に


嫌気が差していた。









煮詰まっていたのかもしれない、。


最近は何をしてもイマイチしっくりいかなくて


でもそんな自分はヘラヘラしてしてることが多くて、その身体のSOSに気付ける事ができる人がいなかった。


毎日遅くまでスタジオ、そして日付も越えたころに帰宅してまた寝て起きたら仕事。


まれに夜をそこで明かす事もあった。


朝起きるといつもある頭痛とだるい感覚。


もはやそれは日常の事であり、異常も続けば、通常となっていた。


「今日もスタジオか……」


カレンダーを見ると×印の羅列。


もう何日もオフはない。


そしてその続く時間の流れに加担してるのは自分。









どうしても納得する音が生み出す事ができずに今に至る。









「おはよーございます」


いつもと同じ時間にいつものように到着する。


中に入れば、いつものように誰よりも早く来てるその存在。









――――葵さん。









「お〜、麗早いやん?」


くすくすしてるその顔にはうっすらと隈ができていて、あまり寝ていないのを思わせる。


そして自分のせいで、レコーディングが押している事実を強く感じる。









「ん〜……なんか眠り浅くてね」


俺のせいで今押してんじゃん?なんていいながら自分も煙草を探す。


相手から立ち込める煙草の煙に誘発されるかのようにそういえば今日は吸ってなかったな、と。


「アレ…?」


しかし自宅から持ってきたと思う煙草の姿はなく。


いくらバックの中を探してもそれは見当たらなかった。


「煙草忘れたん?」


俺のでよければ吸う?なんて差し出されるそれ。


タール数の違うソレ。


何も考えずに受け取り、咥えればふっと差し出される相手の吸ってる煙草。


ジジジ


火種を映し、吸い込むと一気に肺に広がるその味。


「……」


「なんやの。ちょっと重いだけやろが」


無言なのを察してそんな言葉。


その苦さは今の自分の重さのように思えた。












「もう一回いい?」


何度やってもどうしても自分の納得いく音が出来上がらない。


自分だけが取り残されるような感覚。


すでにメンバーもマイペースが出たよ、とあきれている。


ただ一人。


葵だけが、その麗の申し出に黙ってついてきてた。









「本当にごめん」


休憩に入り、喫煙所で一緒になればそんな消えそうな言葉。


でも自分は納得できずにどうしてもあれではGOサインが出せずに。


結果ますます時の進みを自分で止めていた。


休憩、の台詞に一番ほっとしたのは自分。


そして喫煙所に向かった俺と一緒に葵の存在。









「ん〜……別に俺は気にしやんし麗が納得できるもんが出てくるまで俺は付き合うやけやよ?」


彼特有の言葉でそう告げられれば、ふわっと広がるマルボロの匂い。


そして彼から香る香水の匂い。


「しんどいと思うんよ、今」


だから俺だけでもちゃんと麗の傍にいてやらんとな、と。


何気なくいわれた言葉に









正直ドキリとした。









「あ〜、おかえり」


あれ?何うっさん顔赤くしてんの?なんてケタケタしながら笑う流鬼。


思いのほかこの後の音入れはスムーズすぎるほど、しっくりして。


自分の分担であるギター入れはあっけなく終了した。









「なんか暇だなあ…」


音入れが終わってしまえば、自分はとくにスタジオに行く必要もなく。


自宅で大人しくしてる以外なかった。


そうすればとたんに暇になる。


そして妙な寂しさ。


あの時胸がドキドキしたのを境に妙に気になる存在。


麗にとってその存在が大きくなった日。


まさにそう


本人が自覚しないままに


恋はスタートしていた。















「麗〜?何考えてんよ」


煙草の火を消しぐいっと引き寄せられるように強引に口付けられる。


「ん〜?」


何も考えてないよ、の声に俺以外考えてたやん?と


そして優しく引き寄せられるように抱きしめられる。


「葵さんの事好きになったときの事思い出してたんだよ」


そんな反応にくすくすしながら自分も首に腕を回す。


クールなように見えて、実は熱い人。


あの時も結局自分が好きかも、と言った後凄く焦ったっけ。


「んな事考えてたん?」


くすくすしながら思い出したように目を細めながら唇をついばまれる。


口にあるピアスのあたるその葵特有の感覚にさっき果てたと言うばかりなのに、身体はありえないほどに昂ぶる。


「あん時はな〜……いつ麗から言ってくれんかと焦ったんやよ?」


そして耳朶を指先で弄られ喉元に音をたてて口付けられる。









マイペースな自分。









強がりな貴方。









案外


神様は粋な事をしてくれてるみたいだ。









END