「……」
起きたら何故か俺の視界には俺の身体が映っていた。
「……ぇーっと、、、何だこれ」
目の前にある手を握ったり開いたりして感触を確かめるも、紛れもなくそれは自分自身であり、他人の手だった。
どう考えても俺のものでない身体に、俺。
「――おい、玲汰起きろ」
とりあえず俺に出来ることは玲汰を起こすこと。
はっきりいってこんなアニメかテレビみたいな事、馬鹿馬鹿しいけど実際問題として俺の身体は目の前にあるわけで。
どう考えても可笑しい非現実的。
「ん……」
まだ眠いのか目を擦ってるその仕草はよく玲汰がすることだけど、実際俺の身体がやってるわけで…全然かわいくねえ。
むしろキモいの一言。
「ぼやぼや寝てる場合じゃねぇっての!!起きろっ!!」
ゆさゆさ身体を揺らして無理矢理起こして。
「んだべ、まだ早いだろ?!」
寝起きで不機嫌な玲汰の右フック.
今ここで受けてる場合じゃない。
「っ……一大事なんだから起きろ」
無理矢理後頭部に腕を回して一気に自分の方に引き寄せる。
そして朝の挨拶にしては強烈な口付け。
歯列をなぞり舌先を挿しいれ上顎をなぞるようにして口腔内を愛撫する。
くちゅくちゅと音を響かせるようにして貪るようにすれば漏れ始める吐息。
別に玲汰は俺らがこんな事態になってると知らないわけだから、いいけど、俺としては俺に迫ってる気分であって。
俺の声でそんな声出されると、顔が引きつりそうになる。
玲汰の癖ともいえるようなその少し掠れたようなトーンの吐息ですら、俺の声なわけで。
「っ……流っっ…」
今の俺にすっぽり納まるサイズなのが俺の身体ってことにも少しだけむかつく。
「……目ぇ覚めたか?」
下唇をかり、っと噛んでから離れるその動作すら、いつもの感触と違って厚ぼったいのに、俺と玲汰の唇の厚さの違いを強く思い出させる。
「おま……朝、っから……ぇぇ?」
あ、目ぱちくりさせてて可愛い。
俺がやったらキモいけど、中身が玲汰だって知ってるから。
間抜けに人の事指差して間抜けに口ぱくぱくさせるとか、本当お決まりな反応してくれる。
「俺がいる―――!!」
流石俺の身体。
見事な声量でした。
「で、なんでこんなことになったのか全然わかんねぇんだけど」
とりあえず打ち合わせとかあるから仕事に穴あけるわけにもいかないし、入れ替わってるだけで仕事に支障は無いだろう、という判断で、仲良く出勤。
もちろん俺は運転なんてしたことねェから普段だったら車通勤なんだけど、出来ないしタクシーできた。
「……つーかその冗談笑えないけど、玲ちゃん」
俺と玲汰じゃ中身があまりに違いすぎるから、と戒に説明するも案の定。
信じてもらえるとは思ってなかったけど、朝から遅刻しといてこの言い訳には戒の表情が硬い。
冗談で済まされるんだったらそれはそれで本当にありがたいってもん。
そりゃ俺だって玲汰の事全部俺のもんにしたいとか思ってたけど、玲汰本人になるなんてありえねェし。
つーか玲汰になったら玲汰ん事愛する事とかできねぇじゃん!
「冗談で済むんだったら俺だって冗談にしてぇっての」
ち、っと思わず舌打ち。
そしていつものごとく煙草を吸おうとしてポケットにない煙草の存在に気付く。
「おい、流鬼お前今俺の身体にいるんだから煙草とかやめろよ。禁煙してんだから」
横から小さい存在が睨むようにして俺の手を掴んでる。
ちょっと離れた位置からギター隊バカップルは俺らのやりとりをハラハラしながら見てるわけで。
「そーいやそうだった……って別にいいじゃん、今は俺の身体だろ?」
つーかコイツから見る俺ってこんな視線下なんだ、とふと見えるつむじに苦笑い。
俺って本当ちっせぇじゃん。
「お前は良くても俺はよくねェっての。何ヶ月禁煙してると思ってんだべ」
玲汰の口調なのに玲汰じゃない器。
俺っていつもこんな風に玲汰から見られてたんだ、なんてちょっとした発見。
「玲汰も俺の身体で禁煙してくれていいんだぜ?」
ニヤりと口端上げてそう告げる。
素早く俺の身体の上着から煙草。
手が長いって便利、とかこの一瞬の動きで思ってしまう。
あっさり取れるし。
「ぁー…うめえ」
あーーという玲汰の叫び声を無視して俺は煙草に火を灯した。
「……つーか今の一連で本当って言うことが嫌って程わかったよ」
踏ん反り返って座りながら煙草吸ってる玲汰と、ちょこんと小さくなって座ってる流鬼。
二人の行動見てると明らかに可笑しいもので、入れ替わってると思うほかない、といった表情をとる戒の姿。
「だから言っただろが」
灰皿に煙草を落とすその仕草すらいつもの流鬼の仕草で、横で百面相してる玲汰も慌ててるときの玲汰そのもの。
「朝起きたらこうなってたんだって」
とりあえず今の仕事に支障はねェだろうから、このまま仕事するしかねーだろ、なんて言えば戒のほうが驚愕したような表情を取る。
実際今は打ち合わせの段階で、マネージャーと気心しれたスタッフ意外は関わらない期間である。
だったらこのまま仕事していればガゼットには問題はないと。
「まぁ、二人がいるから問題はないといえばないけど…」
仕事をしなくてはいけない身としてはやはりどうしようもなく、その言葉を受け入れるしかない。
「まあ、俺が流鬼で流鬼が玲汰ってだけだからさ」
気にしないでそのまま接してくれ、と言えば明らかに葵くんの顔が引きつっていた。