「つかマジ中身だけ器用に入れ替わってもたん…」



ため息をついても事実は事実で、俺に葵がビビリながら近づいてきてからも仕事は滞りなく進むのを目の当たりにして、信じてくれたらしい。
話し合いの場になれば、発言権や決定権があるのはどうしても俺と葵な事が多くて、玲汰の身体だけどおかまいなしにガンガン発言する。

玲汰の身体は俺より少しだけ作りが大きいだけで、後は何ら変わらない。

「ぁー…何か朝起きたらこうなってたんだよな」

流石に10時間もこの身体でいたら慣れた、と言いながら煙草に手が伸びる。
身体は違っていても、この煙草を吸うと言う動作そのものはやはりやめられないらしく、さっきから煙草に手が伸びてばかりだ。
いつもの俺より多少タールがキツいかな、と思うのはやはり玲汰の身体が今まで禁煙していたと言う事実があるせいだろう。


「ぁー…煙草がうめえ」

オイルの灯がともる匂いとこの煙草の香り。
一時期禁煙もしたけど、やっぱり自分には出来なかったこと。
身体に悪いからやめろと俺も散々玲汰に言われた。

「……そうやって煙草吸っとる姿はほんま流鬼やよな」

流鬼の仕草やし、と眉間に皺寄せてそう言う葵の姿はやっぱり疑ってるけど、信じないといけないと言う困惑した表情。

「そうかー?」

銜えタバコしながら視線はパソコンの画面。
そこにはデジタル化された暗号の塊。

「こんなわけわかんねェ事になってるのにそれに順応してる皆に俺は感謝だぜ?」

はあ、とため息が出てしまう。

だって

一番わけわかんなくなってるのは俺らだし。



「まーなぁ…」


そう呟いた俺の言葉には困ったような葵の声。
そりゃそうだよな、なんて顔を上げれば、そこには俺じゃなくて、玲汰を見てる姿が映る。

「麗があんだけ一緒にいて違和感ないとか…ほんま流鬼が玲汰なんよな、って」

いつものように幼馴染コンビが幼馴染特有のいちゃつきをしていて。

まあ、その身体が俺ってだけで、それは何らいつもと変わらない風景。


「――…同じ身体やのに、中身が玲汰ってだけで……あんなに可愛く見えるもんやな」


そんな恋人達の姿を見ながら葵の口からとんでもない一言。
「……はあ?」

つーか目の前に映ってるのは恋人達の姿であり。
そりゃ多少俺が玲汰だったりするからヴィジョン的にはおかしいものももあるけど。
長いものには巻かれろ体質な麗的にはすっかり慣れてしまってるらしく、そりゃもう自然といつものようで。
そんな麗と一緒にいるせいもあり、玲汰の方も至極自然といえるもの。
ただ俺の身体だってだけ。


「やってな、今の行動とか玲汰がよくやるやん?」

やのに、流鬼の身体がやってるとますますちっこくて可愛ぇんやん、なんて言ってる葵。
よく玲汰のこと見てるじゃん、と思ったりしたけど、こうして俺と一緒によく二人のことみてるしな、なんて納得。

「まー……確かに俺の身体はちっせぇよな」

玲汰の身体に入ったからこそわかったこと。
今自分が言われてるわけじゃないからそんなにムカつかないけど、いつもだったら激怒してたのに。

「なーんかやっぱり玲汰だから無意識に可愛いんじゃねェの」

ニヤニヤしてそう呟いてしまう。
ひょこひょこ動く頭が、俺の頭にもかかわらず、とっても可愛く見える。

麗とじゃれて麗の腕の中にすっぽり納まって苦しそうにしてるから、真っ赤になってるとことかいつもと何ら変わりない。

「あーあ、麗も力加減わからんくて玲汰んこと締め上げとるし」

横で俺同様まったりと二人を眺めている葵の目が優しい。
きっと麗のことしか見えてないんだろう。


蕩けるような目して優しい口調。
きっといつも俺もこんなアホみたくなってんのか、なんて今更。


「うわー…きぃちゃん玲汰の顔してそんな顔しないで」

夢壊れちゃうから、なんて言われて後ろから戒にどつかれたとこで二人して我に返る。
今日は早く解散にしてあげたいんだから二人はあの二人の分も必至でキリキリ働きなさいと言う戒の命令で俺らは必至で動き始めた。










じゃー、お疲れ様、なんて号令とともに解散。
その言葉で俺の横によってくる玲汰の姿。
こう言っちゃ何だけど、俺より小さい玲汰の姿は本当今すぐ抱きしめてやりたくてたまらない程に可愛い。
「流鬼、帰んべ」
荷物まとめてる俺の横でちょこん。
まさにちょこん。


デカい図体で同じことをされたらされたで凄い犯罪的に可愛いけど、これはこれでとっても可愛い。
いちいち仕草が可愛いと言うか。
あ、それ玲汰の仕草、と言うかその肩を鳴らす仕草。
癖なんだろな、と。
俺が荷物整理つくまで、といって椅子に座って携帯いじってる姿は何らいつもと変わらない。


眉間に皺寄せながらメール打ってるのが、自然すぎるほど自然。


「流鬼―。早くしろよな」
退屈、と言う玲汰のその口調は俺に甘えたいときに発揮されるもの。
そして玲汰の無意識の構えよ、な伝令。
素直じゃないのが俺としてもコイツを甘やかしたくなるもので。
食って掛かってくるようなところが本気で可愛い。


「もう終わるから待てって」

何気なしに相手の顎に手を伸ばして。
額に口づける。
近づく俺の顔に一瞬苦笑いしてしまうも、目をつぶってしまえば相手は玲汰。
ちゅ、っと静かに響く音。


「……ばっっ……!!」


そして俺のそんな口付けに、周りにまだ皆がいたと言う事実がすっかり抜けてた俺は見事なもみじを頬に受けた。






「…わかってはおるんやけど…」
「うん、、葵くんの言いたいことよくわかる」
「だよね」


『ヴィジュアルが玲汰が流鬼に迫ってるみたい』

メンバーの意見はこんなものだった。










「ただいまー」
あの後散々葵に念押しされて二人で帰宅。


家に入れば、やはり緊張してたのかどっと疲れが押し寄せてきて肩の力が一気に抜ける。
「疲れた…」
ハア、とため息ついてソファーに座り込んで天井見上げればすかさず出てくる飲み物。
そして横に感じる体温。

「確かに」
苦笑いしながらもさほど疲れてないのかさっそくテレビのリモコンいじりはじめる玲汰。
テレビから溢れる光と音に軽く眩暈。
薄暗めな室内を彩らせるその箱からでてくる情報の多さと今日一日の出来事の多さに隣に居る玲汰の身体を引き寄せる。


「……流鬼?」


そんな俺の甘えに気付いたのか、リモコンをテーブルに置いて頭を撫でられる。
ゆっくりと髪の毛を掬われると何となく疲れが癒されていく気分になるのが不思議。


「俺の髪と流鬼のって似てるなー…痛んでるとことか」

いいながらクスクスして俺の事見つめてくる玲汰に急激にわきあがってくる玲汰への愛おしい想い。



「……そりゃ、お互い無茶してるしな」
どうせなら今この状況下でしか味わえない事を。


「おわっっ」


横にある身体をひょいと俺の膝上に。

俺の力じゃ玲汰の身体はいつもは持ち上げるなんて不可能に近いから。

跨がせるようにして膝の上に向かい合って座らせる。
いつものように少しだけ視線が上になるこの体勢はつい昨日の事なのに懐かしい。


「いきなりビビるべ」


言いながらも首を微かに傾げて口付けを強請る辺り流石というもの。
後頭部に手を添えてそのまま引き寄せるようにして唇を啄ばめば、そのまま舌先が滑りこんでくる。

ああ、俺の唇ってこんなふにふにした感覚なんだ、と思いながらそのまま歯列をなぞり舌先を絡ませていく。

主導権は変わらないわけで、俺が握る。
くちゅくちゅと響く音とじょじょに漏れ始める吐息。
角度を変えながら口腔内を舌先で弄り上顎をいつものようになぞれば少しだけいつもと違う声。
漏れる声がいつもより低いのは俺の身体だから。


「ンっっ…ふっ…」


慣れない体勢で強いられる口付けに玲汰は早くも声を上げていて。
そんな俺で感じてくれている玲汰に俺の息も上がってくる。

「玲汰……」

下唇を軽く噛んでからゆっくりと離せばそこには潤んでいまにも涙が零れそうになってる相手の姿。


あー、やべぇ、と思った時にはすでに遅くて。
俺の身体というか。


玲汰の身体はしっかりと。



反応を示していた。